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色男と写真機

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 現在、写真機はおそらく重大な分岐点上にある。しだいにふたつの方向に収斂し完全に別れてしまうにちがいない。ひとつは、電子式でほとんどの機能が自動化され、電子的媒体に記録するデジタルカメラ、ひょっとすると、限りなくビデオカメラに近い方向のモノであり、もうひとつは、マニュアル操作が可能で銀塩フィルムに記録する、主として機械式写真機の方向である。
 ディレッタントを自認する写真愛好家にとって、すべての機能がマニュアルで操作可能か否かという点は決してささいな問題ではない。その資格と存在を問われるべき大問題なのであるから無視できない。写真愛好家は少しばかりの高尚な精神と、機械を操る能力をもっている。みすみす一網打尽の、そして能無しの道にふみこんではいけない。もし仮に、能無しの道を歩くことになっても、能あるタカの"爪"だけは常に隠し持っている必要がある。使うか否かは別にして毎日の鍛錬を怠らず、というのは武士道の神髄でもある。
 写真の愛好家は色男が多いのだが、色男は誘惑に弱く、力はないものと相場はきまっている。一網打尽の誘惑に打ち勝つためと、付加される重量のために、むしろ余分な機能はジャマなはずである。写真愛好家が道をふみはずし、もう一方の道だけを歩くようになってしまえば、写真愛好家は絶滅してしまうことになる。我々は絶滅危惧種である。武士は食わねど高楊枝、およそ美学というものはやせがまんからはじまる。シンプルなものにこそ本質は宿る。もとの道を忘れてしまえば未来はない。
 さて、釣りを嗜み、楽しみ、きたるべきすばらしき日を夢見る釣師と同様のやり方で、写真を嗜んでいる色男にとっては、したがって一網打尽を狙うプロの漁師のやりくちはあまり参考にはならない。とすればいったい、どんなタイプの写真機が必要なのだろう。
 その内部構造が自分の知性で理解できるのか、できないのか、自分の能力で操作できるようになるのか、ならないのか、それ自体に愛着を持っていつも連れて歩けるのか、歩けないのか、そしてできることなら、敦盛の、ゆめまぼろしのごときの五十年、共に人生を過ごすことができるのか、できないのか。まるで、細君を選ぶときのようであり、胸がときめくのを禁じ得ない。だが、釣師の道具とは違って、星の数ほど生産されている写真機やカメラのなかで、選択の候補はあまり多くはない。
 電子制御のカメラはおそらくまず全滅である。戦場やこの世の果てに持っていくなら機械式のほうが信頼性が高いなどと言うから、かえって話がややこしくなる。日本製電子制御カメラは立派に宇宙で活躍している。問題点は、何年後かにどこかしらの電子部品がダメになったとき、替えの基盤も液晶も、へたをすると電池すらない、ということにある。ひとつのコンピュータを二十年使っている人にお目にかかったことはないが、コンピュータ同様、電子制御のカメラは典型的消耗品として作られている。
 一方、基本的な機能を維持するのに電池を使わない機械制御の写真機は長期間使うことができることが多い。千載一遇のシャッターチャンスのために必要だとされるモータードライブも、連続撮影の結果の一期一会なぞいらないから使わない。ビデオの静止画像とどこが違うのか理解不能である。道をふみはずしすぎれば、写真という存在そのものが消えてなくなる。露出を変えて3枚ほど連写するというならまだしも、高速のモードラなぞ、絶対に、いらない。電池は露出計ぐらいにしか使わないから、身も心もポケットも軽い。ついでに持ってる財布も軽くて構わない。色男はカネもないのが普通である。
 そして、本当に自分の気に入ったモノだけをごく少数だけ厳選して、長期にわたり愛用すればよい。どのみちデジタルカメラもいっしょに持って歩くことになる。デジタルカメラは、どうせ1、2年でとっかえひっかえすることになる、"超"のつく消耗品だから、プロの漁師と同じモノを選ぶのはまったくバカげている。ある程度の性能のものなら、軽ければ軽いほど、安ければ安いほど、良いということだ。

 人間が叡智を傾け、金属を加工し、組み上げ、調整した精密な機械制御の写真機。写真愛好家の道具としてこれほどふさわしいものが他にあるだろうか。

 一時間、幸せになりたかったら酒をのみなさい。
 三日間、幸せになりたかったら結婚しなさい。
 永遠に、幸せになりたかったら機械式写真機を買いなさい。

などという古諺は、当然、あるわけはない。
 とりあえず、前置きはこれぐらいにしておこう。乱筆、乱文、乱調ライカ節。

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この記事は著者が2007年2月 4日に書いたものです。

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