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バルナック

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 まずバルナック型はやめにしたほうがいい。自分でさんざん試してみての結論だが、写真愛好家がいつも持ち歩いて森羅万象を撮るのには向かない。過去の経験から言えば、酒場やら同窓会やらに持っていくなら最高だ。また、夜中に飲む酒の肴や、日々の労働に疲れた精神のために、というなら一台だけあってもいい。
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 ピントも目測、場合によっては構図も関係なくノーファインダーでもいいよという数寄者中の数寄者、またバルナックであまり写真は撮らないよというお金に余裕のある方は、何を選んでも一向にさしつかえない。ただ、普通の愛好家にとってはそうはいかない。
 どうしても愛用したい方のために、まず、視度補正はできる方がよい。年をとるとよくわかる。眼鏡なぞ使えるわけがない。また、セルフタイマーのないモノの方がいいだろう。握りやすく、見た目もスッキリして魅力がある。それにセルフ撮影はしたためしがない。ただし、色男であったり、あとで売ることを考えるのなら、セルフタイマー付きということだろう。シンクロも赤だ黒だと気にしなくても良い。どうせシンクロなぞ使うことはない。
 したがって、板金のモデルならIIIa、ダイキャストのモデルならIIIcの後期かセルフタイマーのないIIIf、黒いバルナックがどうしても欲しい場合にはDIIIが魅力的である。IIIaの黒いモノなぞをさがしてはいけない。IIIcのグレーのモノや、IIIfや IIIg の黒いモノは、数寄モノだから見ないようにする。見ると目が飛び出るし、ひょっとすると離婚にまで発展する恐れがある。
 現代のものとシャッタースピードの系列が異なるのは気にしなくてもよい。そんなことを気にすると、IIIgしか買えなくなる。IIIgも一部に熱烈な支持者がいるが、ファインダーのごみが異常に大きくみえてオーバーホール好きにはたまらないモデルである。
 バルナックの操作には、ご存じのとおりの作法が必要である。はじめての場合、おそらくフィルムすら入れることができないであろう。どこぞの記事を見てテレフォンカードを使って入れていたら、ライカ修理のマイスターにきつく叱られてしまった。カードについている磁粉だか色だかが落ちて機械に残ったり、ひどい場合は細かいかけらが内部に入り込むらしい。やはりフィルムは作法にしたがいあらかじめ切っておいてから挿入しなければならないようだ。さすが女性名詞ライカである。
 また、シャッタースピードは、フィルムを巻き上げたあとでセットしなければならない。巻き上げとともにシャッターセットリングも回転してとんでもないところで停止するからである。またシャッターを切るときはシャッターセットリングも一緒に回転するため、その部分に触れぬように注意せねばならない。
 フィルムの巻き上げさえも作法がある。親指と人さし指でつまんでまきあげるのではなく、人さし指にそってやさしく滑らせるように巻き上げるのが通、などという記事を読んでその気になっていたら、またまたマイスターに叱られた。一方向のみにいつも力がかかるようになるため、回転軸にいいわけはない。
 バルナックは、ピントあわせと構図も優雅な作法にのっとっておこなわれなければならない。ピント合わせにのぞく穴と、構図合わせにのぞく穴が別々になっているからである。覗き直すたびに自分の目のピントも合わせ直すことになる。M型はそのファインダーの中心部に二重像合致式の距離計を備えた一眼式になっている。M型ですら明るいレンズを開放で使用する際、中心部でピントを合わせてから構図をかえるとピントが微妙にずれるので気を使うのだが、バルナックは構造上ファインダーが別であるから始末に負えない。ライカのレンズは暗いレンズにすばらしいものがあるから、それしか使わないのならいいのかもしれない。もっとも数寄者にとっては、その鍵穴を覗くが如き行為さえも悦びになるから気をつけなくてはならない。
 "いいかげん"な愛好家の自分はいいかげん楽しくなくなってしまい、結局バルナックはあまり使わなくなってしまった。バルナックのみをお使いの愛好家がおられるかもしれないが、本心から尊敬の念がわきあがるのを禁じ得ない。山だ海だ森だ都会だと持ち歩く自分にとって、バルナックは重さは軽いが荷が重いようである。

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この記事は著者が2007年2月 9日に書いたものです。

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